30年ぶりに肥満症治療薬としてウゴービが以前より話題となっていましたが、2023年11月22日に薬価収載されるようです。ただ当たり前の事ですが肥満症治療薬であって、肥満を改善するための薬剤ではありません。いわゆるダイエット(痩身)の助けとして使用する事はできず、生命のリスクがあり十分な食事・運動指導を受けても改善が難しい場合に初めて薬剤の使用が検討される事になります。対象となる患者様の病状・使用可能な施設基準(専門医・多職種の指導可能な医療機関・教育認定施設)・流通する薬剤の制限などから、なかなか適応が厳しい現状と考えます。お問い合わせをいただくことも多く、わかっていることをまとめさせていただきます。
<肥満と肥満症の違い>
BMI≧25に内臓肥満または肥満に起因ないし関連する健康障害を伴うものを肥満症とされます。BMI≧35になると高度肥満症と診断されます。肥満に起因ないし関連する健康障害とは耐糖能障害・脂質異常症・高血圧・高尿酸血症・痛風・冠動脈疾患・脳梗塞・一過性脳虚血発作・非アルコール性脂肪性肝疾患・月経異常・女性不妊・閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低喚起症候群・運動器疾患(変形性関節症・変形性脊椎症・肥満関連腎臓病となります。ただ体重が多いだけでは肥満であり、内臓肥満または健康障害を伴うようになると肥満症とされます。※上記フローチャートは肥満症診療ガイド2022より
<ウゴービ使用対象者について>
以下のすべてを満たす肥満症患者であること
1)最新の診療ガイドラインの診断基準に基づき、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のうちいずれか1つ以上の診断がされ、かつ以下の条件を満たす患者
- BMI≧27、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
- BMI≧35
2)高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症に関する最新の診療ガイドラインを参考に、適
切な食事療法・運動療法に係る治療計画を作成し、本剤を投与する施設において当該計画に基づく
治療を6ヵ月以上実施しても、十分な効果が得られない患者であること。また、食事療法について、
この間に2ヵ月に1回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受けた患者であること。なお、食
事療法・運動療法関しては、患者自身による記録を確認する等により必要な対応が実施できている
ことを確認し、必要な内容を管理記録等に記録すること。
3)本剤を投与する施設において合併している高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病に対して薬物療法
を含む適切な治療が行われている患者であること。本剤で治療を始める前に高血圧、脂質異常症又
は2型糖尿病のいずれか1つ以上に対して適切に薬物療法が行われている患者であること。
複数の肥満に関する健康障害を有し、綿密な食事や運動指導を半年以上継続しても十分な効果が得られない場合に初めて薬剤使用を検討される状況になります。従来食事・運動指導をしっかり行っても効果が十分ではなく生命リスクが高い場合には肥満手術を選択される場合がありましたが、肥満手術の前の選択肢と考えてよいと考えます。
<ウゴービの継続・中止の判断基準>
- 高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症に関する最新の診療ガイドライン等を参考に、本剤投与中も適切な食事療法・運動療法を継続するとともに、2ヵ月に1回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受けたことが管理記録等で確認できること。
- 日本人を対象とした臨床試験において、本剤の 68 週間を超える使用経験はないことから、投与は最大 68 週間とする
- 本剤の投与開始にあたっては、本剤による治療計画を作成すること。作成にあたっては、本剤投与中も適切な食事療法・運動療法の継続が必要であること、及び 68 週間後までに本剤を中止できるよう適切な指導が必要であることに留意すること。
- 本剤投与開始後、毎月、体重、血糖、血圧、脂質等を確認し、本剤を3~4ヵ月間投与しても改善傾向が認められない場合には、本剤の投与を中止すること。
- 本剤を3~4ヵ月間投与して減量効果が認められた場合、その後も2~3ヵ月に1回以上、体重、血糖、血圧、脂質等を確認して患者の状態を十分に観察し、効果が不十分となった場合には本剤の投与中止を検討すること。
- 十分な減量効果が認められた場合(臨床試験では5%以上の体重減少を達成した被験者の割合が主要評価項目の1つとされた)には、投与継続の必要性を慎重に判断し、投与開始から 68 週を待たずに本剤の中止と食事療法・運動療法のみによる管理を考慮すること。本剤中止後に肥満症の悪化が認められた場合は、本剤の初回投与開始時と同様に、本剤を投与する施設において適切な治療計画に基づく食事療法・運動療法(2ヵ月に1回以上の管理栄養士による栄養指導を含む)が実施できているかを確認し、当該計画に基づく治療を原則として6ヵ月以上実施しても必要な場合に限って本剤を投与すること。なお、本剤中止後に一定期間患者の状態を確認し、肥満に関連する健康障害の増悪が認められ、やむを得ず6ヵ月を待たずに投与再開を検討する場合には、その必要性について十分に検討し治療計画を作成したうえで本剤の投与を再開すること
まとめると、薬剤開始しても2か月に一回以上は食事や運動の指導を継続し、その記録を確認しながら最大68週以内に薬剤を中止できる対応が必須です。薬剤使用しても効果が得られない場合には3~4ヶ月とめどに中止を検討。開始時には減量効果が得られても、途中から更に効果が得られない場合には中止を検討。5%以上の体重減少効果が得られた場合には、薬剤を中止し食事・運動療法のみの指導を継続にすること。高度肥満の方が薬剤で22前後まで使用する事は不可能で、薬剤使用に関しては最小限にとどめるように指導されているようです。
<施設基準ならびに治療責任医師の基準>
内科、循環器内科、内分泌内科、代謝内科又は糖尿病内科を標榜している保険医療機関であること。
施設内に、学会専門医(日本循環器学会・日本糖尿病学会・日本内分泌学会)いずれかを有する常勤医師が 1 人以上所属しており、本剤による治療に携われる体制が整っていること。また、自施設に所属していない専門医がいる場合は、当該専門医が所属する施設と適切に連携がとれる体制を有していること。各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。常勤の管理栄養士による適切な栄養指導を行うことができる施設であること。実施した栄養指導については診療録等に記録をとること。
高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症の病態、経過と予後、診断、治療(参考:高血圧治療ガイドライン、動脈硬化性疾患予防ガイドライン又は糖尿病診療ガイドライン及び肥満症診療ガイドライン、肥満症の総合的治療ガイド)を熟知し、本剤についての十分な知識を有している医師(以下の医師要件)の指導のもとで本剤の処方が可能な医療機関であること。以下の医師要件に掲げる各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。
- 医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症の診療に5年以上の臨床経験を有していること。又は医師免許取得後、満7年以上の臨床経験を有し、そのうち5年以上は高血圧、脂質異常又は2型糖尿病並びに肥満症の臨床研修を行っていること。
- 高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病を有する肥満症の診療に関連する学会(日本循環器学会・日本糖尿病学会・日本内分泌学会のいずれか)の専門医を有していること。なお、日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい。
まとめると日本循環器学会・日本糖尿病学会・内分泌学会いずれかの専門医が必須。また医療機関としていずれかの学会の教育認定施設(専門医育成医療機関)であることが必要です。また複数の医療スタッフ(特に管理栄養士による食事指導)による栄養・運動指導ができる体制が必要です。ただしクリニックでは教育認定施設が難しく現状可能な医療機関はかなり制限されることになります。基本的には大学病院などの肥満診療を専門的に行っている施設に限られるようです。
<肥満症治療指針について~肥満症診療ガイドライン~>
6ヶ月以上の食事・運動指導について肥満症診療ガイドライン2022から肥満症治療指針を紹介させていただきます。BMI25~35では現体重3%、BMI35以上では現体重5~10%を減量目標とします。目標体重は年齢によって異なりますが、65歳未満ではBMI22・65歳以上ではBMIは22以上25未満に設定されます。BMI35未満の場合には目標体重×25kcal/日以下、BMI35以上の場合には目標体重×20~25kcal/日以下の総摂取エネルギー量とされます。運動は週に150~300分の指導がされます。食事・運動療法を行っても効果が得られない場合には、食事療法の強化や薬物療法・肥満手術の外科手術が検討されます。
上記食事指導はかなり厳しい内容となります。例をあげると40歳男性・身長169㎝・体重100㎏(BMI35)の患者様の場合を考えてみます。標準体重62.8㎏となり1256~1570kcal/日未満の食事摂取設定になります。150分/週の有酸素運動(3METS)であれば787kcal/週の運動量になります。基礎代謝は考慮されておらずある程度短い時間に体重だけを減らす目的の指導になります。指示通り継続するのはなかなか大変だと思います。
結論:ウゴービは保険収載され使用可能になりましたが、長期間の目標を立てて無理なく継続可能な食事と運動をすることが大事と考えます。肥満について悩みがございましたらお気軽にご相談ください。